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専業主婦から37歳で農業デビュー。 「畑は私の実験場」。試行錯誤しながら自然農法にチャレンジ

専業主婦から37歳で農業デビュー。
「畑は私の実験場」。試行錯誤しながら自然農法にチャレンジ

Farm Green&Rich、横浜ベジフルレディ代表
角田 緑里さんMidori Kakuda
女性キャリアモデル角田さん
わたしの強み
自分が自分でい続けられること
このしごとに必要な力は?
巻き込み力、継続力、創造力
年齢
44歳
家族
夫、子ども3人
Farm Green&Rich
Midori Gardenの美味しい野菜

初職はテニスのインストラクター。結婚、出産、3児の母親に

小学校2年生の時に始めたテニスがすごく楽しくて、高校はテニス推薦で入学しました。団体戦では全国選抜の大会に出場したんですよ。高校を卒業したあと、短大に進みましたが、馴染めなくて中退。長年続けていたテニスを活かしてインストラクターになって、しごとをしながら、通信制の大学に入りなおしました。通信制の大学では、これまでの自分自身を見つめなおしたいと心理学を学ぶことにしました。
インストラクターをしていたのは、全部で約8年間です。その間に、26歳でサラリーマンの夫と結婚、27歳で第一子を出産しました。子どもを保育園に預けて、職場復帰したのですが、第二子の妊娠を機に退職し、専業主婦になりました。二人の子どもを保育園に預けるのは、経済的に難しくて…。その2年後には、第三子を出産して、それからは子育てに追われる毎日でした。

リスタートは37歳。夫の脱サラがきっかけで農業デビュー

女性キャリアモデル角田さん写真

畑にて

一番上の子が幼稚園の時、しごとをしたくて、リフレクソロジストの資格を取りました。グループホームに行って、高齢者とお話をしながらリフレクソロジーを行って血行を促進しリラックスしてもらうことを少しずつ始めた、その矢先に、夫から脱サラして農業を始めたいと相談されました。
夫の実家は、アパート経営と農業を行っている横浜の兼業農家です。「定年退職したら農業をやろう」っていう話をしていたけど、ずいぶん時期が早まったなと。
夫は、農業経験がほとんどなかったので、かながわ農業アカデミーという、県立の農業の担い手育成機関に1年間通うことになり、私はもっと収入を得るために、岩盤浴の受付のアルバイトを始めました。
夫は、学校に行かない日は、両親の畑で農作業をしていて、学校で習ったことを実践するために、所有していた畑で野菜を育て始めました。私もまったく農業を知らなかったのですが、それを見ているうちに、時間のあるときに草むしりをしたり、誘引する紐の括り方を教わったり、少しずつ作業を手伝うようになっていきました。それが私の農業デビューです。

農園Farm Green&Richを設立。講座に通って農業の基本を学ぶ

女性キャリアモデル角田さん写真

マイクロトマトの収穫

夫が学校で習ったことを実践するために始めた畑では、思ったより多くの野菜が収穫できました。自分たちで食べる以上のものができてしまって、そのままにしておくのはもったいない、できた野菜をもっとうまく活用できないだろうかと考えて、Farm Green&Richという農園を設立して、野菜を販売することにしました。
そして、私も夫といっしょに本格的に働けば、もっとたくさんの人に野菜を食べてもらえるかもしれないと考えて、夫が農業アカデミーを修了した次の年の4月、今度は、私が農業の講座に通うことにしました。JA横浜主催の「女性農業者講座」というもので、1ヵ月1回ペースで1年間、学ぶ内容は、農業の基本です。野菜の作り方、化学肥料、害虫や農薬のこと。女性は加工に従事する方も多いので、加工の実習をしたり、他の農家さんやカフェ販売の見学に行ったりもしました。
実は私、植物を育てるのが大の苦手だったんです。植木鉢に花を植えては枯らしてばかり。だから野菜を育てるなんて私にできるのかと、最初は全然自信がありませんでした。
でも、野菜って畑に植えると、勝手に育っていくんですね。自分の力で地下の水を吸い上げて、肥料をあげるとその養分を吸収してどんどん大きくなっていく。それを見て、お世話をして育てるんじゃなくて、野菜が勝手に畑で育っていくのを手伝うのであれば、私にもできるかもしれないと思いました。
農業と子育てには、共通しているところがあるかもしれません。野菜が子どもと違うのは、話すことができないこと。よく観察して葉っぱが少し萎びていたら水を上げたり、虫が葉っぱについていたら虫を取ったり、元気がない時は何が原因かを考えたりします。本当に「育つ」お手伝いですね。

理想の自然農法をめざして試行錯誤が楽しい

女性キャリアモデル角田さん写真

枝豆、3回目の挑戦で収穫!

私は今、2種類5つの畑を行き来しています。一つは夫と経営しているファームGreen&Rich。これは化学肥料も農薬も使っている畑。でも、可能であれば化学肥料や農薬をなるべく使わないようにしています。それから落ち葉や枯らした草をいれて野菜を育てている自然農法の畑。
自然農法は、最初は有機農業に関する本を読んでこういう農法がある、ということを知りました。それから実際に、その自然農法の家庭菜園セミナーを検索して問い合わせ、月1回往復4時間かけて伊豆まで習いに行きました。移動距離が長くて大変なこともあったけれど、自分がやりたいと思うことだから続けられました。
化学肥料は、環境問題もあるし、生産者にとってもお金も労力も時間もかかる。化学農薬と化学肥料は、使わなくてもできるなら使わないに越したことはないというのが、私の考えです。だから、それに近づけていきたくて、いろいろ試行錯誤しながらやっています。
化学肥料や農薬を使っていた畑から移行するときには、虫がよってきたり、土が固くなっているので根を伸ばすことができずになかなかうまく育っていかないこともあります。それに、土に栄養がないと、野菜ってすぐ種をつくって子孫を残そうとするんですよ。だけど、そこで土づくりを丁寧にして手をかけてできた野菜は濃くて優しい味がする。何より安心・安全ですしね。
それに、自然農法だと化学肥料なども買う必要がないから、お金もそれほどかからない。環境に優しくコストをかけず、おいしい野菜を継続的に作れたら…。落ち葉を使ったり、草を枯らして土に戻してそれが堆肥になっていくといった、自然の循環のプロセスの中で野菜作りをしたいと思っています。
今の農業は、化学肥料や農薬を使うのが当たり前。自然農法でできるの?と聞かれることもしょっちゅうです。でも、私は、本当に化学肥料や農薬がなければできないのか確かめたい。自分で納得いくまでトライしてみて、ちゃんと自分で結果を出したいんです。
失敗するかもしれないけれど、人生一回きりだから、あの時あの人がああ言ったからやらなかった、なんて言い訳しない人生を送りたいと思っています。

直販、会員制…野菜の販路を開拓。女性農業者のネットワーク作りも

野菜の販売ルートはさまざまです。たくさん採れれば農協でまとめてくれて市場に卸すし、直売所にもっていくことも、横浜のような都市部の農業者なら食べる人に直接売ることもあります。
だから、私も、注文を受けたお客様に届けに行ったり、直売会で販売したりと、一日中畑にいるわけではありません。
うちは、小松菜以外は少量多品種。いろいろな野菜を少しずつ育てています。だから市場に卸すほどの収穫量はない。どうやって売っていこうかと考えたとき、会員制システムを思いつきました。ハウス栽培はしていないので、お届けするのは全部旬のものです。
会員には、メールマガジンで、野菜の成長具合や畑のようすについてお知らせしています。最初はママ友に声をかけて始めましたが、口コミで広がり、メール配信を希望する方が増えるようになって、今では80人くらいの方が会員になってくれています。今、こんな野菜が育っているんだと知ってもらうだけでなくて、野菜の値段がなぜ高くなったかとか野菜がどういうふうに育つかということにも興味をもってもらえたらうれしい。畑のようすを知ってもらうだけでもメルマガを取ってほしいですね。
JAの「女性農業者講座」で知り合った仲間とは、「横浜ベジフルレディ」というグループを作って、年2~3回直売会をしています。講座が終わったあと、それぞれが野菜や果物を栽培していたのですが、農業を始めて間もない人が多くて、一人では販売できない。じゃあ、採れた野菜をみんなでもちよれば販売できると思って。直売会では、野菜の食べ方をアドバイスしたり、おいしかったってリピーターになってくれたり、お客さんとのやりとりは、とても楽しい時間ですね。
意識的にネットワークを広げていくことで、新しいアイディアが生まれるし、視野も広がります。女性で農業をされている方は私より年上の方が多くて、一人ひとり違う経験をしているので、そのお話を聞くだけでもおもしろいですよ。
それから、デパートやマルシェや農園に出かけて、他の人が作っている野菜を見ることも大事だと思います。家と畑を往復しているだけじゃダメで、自分から外に出ていかなくちゃ、と実感します。

教わる側から教える側に。夢は自然農法を広めること

女性キャリアモデル角田さん写真

畑は実験の場。試してみたいことはたくさん

農業のやりがいは、なんといっても収穫があること。「今回もたくさん採れた!」って。でも自然農法を学ぶようになって、野菜が育っていく過程に関心がいくようになりました。前回はこの方法でできたけど、今回は違うようにやってみたらどうだろう? とか。他の人がやったことを私も真似てみたりとか。畑は私にとって実験の場。毎日が試行錯誤です。見て、触って、かいで、日々試行錯誤しながらやっていくうちにこの方法でも野菜って育っていくんだって新しい発見、学びがあります。
それから、土をいじっていると癒されますよ。イヤなことがあっても、草むしりをしていると、一心不乱になって、そうのうちどうでもよくなってくる(笑)。鳥も飛んで来るし、いろいろな虫もやって来て、見ていて飽きない。新しい畑はまわりが竹やぶで、すごく気持ちがいいんです。黙々と作業していると、考えたり悩んでいることなど、自問自答することもあります。家にいるよりも畑に行きたいですね。
自然農法を始めて今年の9月で4年目。これからは新しく自然農法をやりたい人と一緒にやったり、もっといろんな経験をして自然農法で作る野菜作りのお手伝いやアドバイスできる側に回れればうれしいです。それから、私が作った自然農法で育った野菜を食べてもらって、どんな味がするのか、土はどれくらい柔かいのかなどを体験してもらえるような場を創りたい。野菜を作る人のネットワークを作って色々な方の交流する場も持ちたい。やりたいことは尽きません。

角田さんからのメッセージ

農業に携わりたいと考えている女性が最近増えてきました。新規就農で、自分がやりたい農業のスタイルがあれば、まずは自分に合った学校や農園などに学びに行くことをお勧めします。一から始める人は市など情報を持っているところに、まずは相談に行ってみてはどうでしょうか。
失敗を恐れず、まずは一歩動いてほしい。やらなくて後悔のある人生より、失敗しても納得して次に向かえる人生になるように、挑戦し続けて欲しいと思います。
大きな目標や、やりたいことが達成できるよう、ぶれずに、試行錯誤しながら一歩一歩進んでいくといいのではないでしょうか。
多くの女性はどこか遠慮がちで道の端っこを歩いているようなところがありますよね。でも、堂々と自分の人生の真ん中を歩いて、自分の言いたいことをちゃんと言ってください。
そうすれば、自分が自分でい続けられると思います。(2017年1月インタビュー)
女性キャリアモデル角田さん写真
Farm Green&Rich
横浜ベジフルレディ代表
角田 緑里さん

Life & Career History

年表_角田様