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特集1女/男には向かない職業(?)〜仕事とジェンダー格差の観点から〜●細谷実(ほそやまこと)高崎市と前橋市で育つ。関東学院大学経営学部教授。専門は男性学。「哲学」・「仕事と人生」・「仕事とジェンダー」等を講義する。著書に『性別秩序の世界』『よく考えるための哲学』、訳書にジョージ・モッセ『男のイメージ男らしさの創造と近代社会』、など。向かないと見なされたからである。こちらは、理由から示す。では、「女には向かない職業」と見られてきたのはどんなものだろうか?三つある。第一は、「男には向かない職業」の場合と同じく、女のジェンダーとして信じられている適性やイメージに照らして、ミスマッチな職とされるものである。例えば外科医、建設技術者、工場技術者、裁判官、消防士、軍人、映画監督、企業幹部などである。探偵もその中の一つなのだろう。第二は、妊娠・出産・育児・家事の遂行を不可能にするような職業ということである。妊娠・出産は全女性に当てはまる話ではないものの、女性(とトランス男性)限定の事態である。育児・家事は、まさにジェンダーとして女性に割り当てられてきたものだ。それゆえ、長期の専念と集中を要する仕事、転勤や頻繁な残業や長期出張を伴う仕事は「女には向かない」と見なされていた。第三に、男が就いてきた安定的・高地位・高収入の仕事は、「女には向かない」ものとされた。その理由は女の側に由来するものではなく、もっぱら男の既得権益を守るためである。紙幅がないので、以下では「女/男には向かない職業」について一緒に書きたい。本人が希望すればどんな職業にも就け、何にでもなれるというものではないことは、男女ともに遭遇する厳しい現実である。個人的な才能・適性、環境、運が大きく作用する。それらに、前に書いたようなジェンダー的障壁が加わる。これまで「女/男には向かない職業」に就いて活躍してきた女/男たちは、その仕事への強い思いと才能と適性を有していたことは確かだ。運は論じにくいのでおくとしても、環境については、100%順風満帆ということはありえないが、それなりに好環境の場合もあったようだ。母親・父親の双方あるいは一方が子どもの希望・才能・適性を理解してサポートしてくれたケースはそうした幸いなケースである。しかし、子どもは親を選べない。一方、先生・先輩・友達・恋人・配偶者ならば、ある程度の選択の余地はある。直属の上司は選べないが、職業上の先輩筋は他にも複数いる。自分の希望や才能を認めてくれる先生・先輩・同僚・友達・恋人・配偶者等は大切だ。逆に中には、他人の希望や才能を潰しにかかる人々もいる。そんな人々からは、さっさと距離を取った方がいい。「親は選べない」と最初に書いたが、そうであっても自分を潰しにくる親からは全力で距離を取らないと潰されてしまう。自分と相手の関心や希望を率直に話し合えるとよい。そのためのスキルや姿勢は意識して学ぶ必要がある。その際、自分のことだけ理解してもらいたいと思ってもだめだろう。理解が深まるのは互いに理解しあう時である。身近に理解者や仲間がいれば、「女/男には向かない職業」についての世間の常識や障壁に、またそこに一体化した周囲の人々が放つ毒にぶつかった時も、負けずに頑張れる。同じく理解者を持ち増やすことで、職場や家庭での旧いやり方やルールを実際に変更してもいける。時代は確実に動いている。チャレンジしてみる価値はあるだろう。5フォーラム通信2024夏秋号