「フォーラム通信」2022年夏秋号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2022年夏秋号のテーマは、特集「自分の声を大切に」。


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2022年2月7日(月)、横浜市立本郷中学校の美術教室を訪ねると、何やらわいわいと、盛り上がっている様子。この日、写真家の長島有里枝さんが講師として授業を受け持ち、「ジェンダーフリーな制服をつくろう」をテーマに、中学2年生向けの授業が行われていました。業の流れです。そして、これらを通して、自分が何者であるかを決めるのは自分であるということや、誰もがジェンダーを押し付けられることなく自由に生きられる社会について考えていくことがこの授業の狙いです。リボン、折り紙、ビニールテープ、布などの素材をアレンジし、現在の制服に装着する男子生徒や、半分スカート、半分パンツのお手製の服を着る女子生徒。「学横浜市立本郷中学校の授業へお邪魔しました3回のプログラムのうち、当日はその2回目。初回は、講師の作品や活動のお話から、ジェンダーの多様性について考える回。今回は、様々な素材を使って新しいジェンダーフリーな制服を実際につくり、それを着てポートレートを撮影。最後の回で、完成した写真を全員で鑑賞するというのが授特集自分の声を大切にねく横浜美術館市民のアトリエ担当森未み祈さんこの授業は「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」の枠組みで実現しました。横浜市では平成16年度から、学校にアーティストを派遣する「学校プログラム」に取り組み、現在は年間130校程度で実施しています。横浜美術館がコーディネーターとなった本郷中学校では、長島有里枝さんに講師をお願いしました。長島さんはジェンダーの視点を一貫して持ちながら、写真家、文筆家として活躍されており、強い信念と中学生に語りかける言葉を持っていると考えたからです。長島さんのようなかっこいい大人に、中学生のみなさんに出会ってほしいと思いました。横浜市立本郷中学校(当時)山田香織先生この授業を実施するにあたり、事前に、ジェンダーに関する新聞記事などを集め、子どもたちに読んでもらうところから始めました。記事を読んだ反応はすごく良く、各自、感想をたくさん書いてきてくれましたし、「小さい時に、セミを取ってきたら、『女の子のすることじゃない』と言われた」とか、それぞれの体験を話してくれる子も。自分の体験を通して疑問に思っていたり、ジェンダーって何だろう、と一人ひとりが考えている様子が印象的でした。今日の授業でも、子どもたちはどんどん作って楽しく取り組んでくれ、表現することにためらいがないんです。ジェンダーはすごく大事なテーマなので、これからも授業で取り組んでいきたいです。今日の先生は写真家長島有里枝さん写真家長島有里枝さん普段は大学で教えているのですが、学生と接していて、子どもたちがジェンダーについて学ぶ機会が少ないのかなと感じます。小・中学校で必修の授業もないし、大学生になってから学ぶのでは遅いなと思っていたので、今回の企画が実現して嬉しかったです。ジェンダーというテーマは少し難しいかなと思いましたが、新しいことに先入観なく真剣に取り組む様子を見て安心しました。私の授業を皆さん積極的に楽しんでいました。美術の授業は、自分をもっと好きになる練習ができる場で、作品には正解がないし、上手いことより自分らしさが重視される素晴らしさがあります。自分の経験からも、美術という科目ができることってたくさんあると思っています。お金を稼げる人が偉いという価値観の社会で、子どもたちは常に競争させられています。芸術はそういう価値基準で動いていません。勝ち負けの世界から抜けたくなったら、いつでも息抜きしに来てほしいです。子どもの頃は特に絵がうまいとか、いつも描いているというわけでもなかったんです。でもある時、自分で失敗だと思ったことを「それ、おもしろいじゃない」と声をかけてくれた美術の先生がいたんです。美術の人たちって、私もそうなんですが、やりたいことをやりたいように、気の済むまでやるんですよね。よほど変なことをしても、「ふーんそうなの」と受け入れてくれたり、ほめてくれたり。そういう体験って、他の科目ではなかなかないですよね。ジェンダーフリーな制服をつくろうPart3ランを貸してほしいという女子がいるけど、男子で誰か貸せる人いる?」と、担当の山田香織先生が尋ねる場面も。長島さんが各グループを回り、「おもしろいね、いいね〜」「リボンだけでこんなにジェンダーレスになるんだね」と声をかけたり、生徒さんと触れ合う姿も印象的でした。授業の最後には、各自で完成させたジェンダーフリーな制服をまとい、お互いを写し合う撮影会が教室や廊下のあちらこちらで行われていました。7フォーラム通信2022夏秋号■今回訪問した本郷中学校を含め、神奈川県内の市町村立中学校の6割が、女子生徒の制服にスラックスを選択できる状況にあります。快適さや自分らしさを選択できる状況が、今を生きる子どもたちにとっては当たり前の風景と呼べる時代になっていることを肌で感じました。


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