「フォーラム通信」2020年夏秋号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2020年夏秋号の特集は、「私、のなやみ」「自分のためのこころとからだのメンテナンス」。


>> P.5

私、のなやみ回答者3北原みのり●プロフィールきたはらみのり作家・ラブピースクラブ代表・「フラワーデモ」呼びかけ人横浜市出身。『日本のフェミニズム』(河出書房新社)、『メロスのようには走らない。』(ベストセラーズ)等、著書多数。「週刊朝日」、「AERA」での連載にもファンが多い。性暴力の根絶を目指し、当時者たちが声を紡ぐ「フラワーデモ」は日本各地で行われ、1万人以上が集まり続けている。『フラワーデモを記録する』(エトセトラブックス)Q210代女性来年、大学受験です。行きたい大学があって勉強をがんばっています。でも、親が「浪人はダメ」「受ける学校は3校まで」「自宅から通える大学ね」と、今から言ってくるんです。兄が一浪した時は何も言われなかったし、けてたのに。理由を聞くと、「女の子だし」「ごめんね、家計も大変だし」と。納得できないです。10校くらい受A2性差別は一見「常識」の顔をしています。「常識」とは、説明不要の圧力です。例えばみんなが「女の子は男の子の一歩後ろを歩くもの」と考える社会では、「前に出たい」女の子はおかしな子になってしまう。「納得できない」と思っても、「嫌だと思う自分がおかしいのかも」と諦めるのです。だってお母さんも、お婆ちゃんも諦めたのだから、私は女なのだから…。そういう中で「諦めなくていい!」と声をあげた女性たちがいます。「おかしいことはおかしい」と言い続け、社会の「常識」を変えてきた女性たち。彼女たちをフェミニストと言います。彼女たちは「女なのだから」と目の前で閉じられてきた多くの扉を、一つ一つ、開けてきました。あなたが「納得できない」と感じるのは、それはやっぱり納得すべきことではないからです。世界の扉を閉められることに、慣れないで。あなたは未来に向かって歩む自由な存在です。その尊さの前に、開かない扉があってはいけないのです。Q150代女性新型コロナウイルスの影響で、夫は在宅勤務になったのですが娘の会社は引き続き出勤が続いています。夫が心配し、娘に「出勤するな」「そんな会社辞めてしまえ」と毎日、説得していますが、娘は「会社の方針だから仕方ない」「職を失いたくない」と出勤を続けています。最近は、「娘がコロナウイルスに感染したらお前のせいだ」「お前の育て方が悪かったんだ」と私を責めます。私にできることは何でしょうか?A1ウイルスは差別しない。それでも感染リスクの高い人はいます。テレワークできない介護や保育などの、ケアの仕事に就く人たち(多くは女性)。また非正規の事務職(多くは女性)も、電話やペーパーワークのために出社を強いられています。「職を失いたくない」と必死に通勤する娘さんの職業は分かりませんが、日本は他国と比べ20代女性の感染率が高いと言われています。まさに性差別は命に直結するのです。そんな状況で、「俺の言うことを聞かない娘を育てた妻」に苛立つ夫の遠吠えには、ただ空しさが募ります。コロナ禍の中で、「お前が悪い」「お前はダメだ」といった夫からの言葉に、家庭に居場所がないと感じる女性が増えています。性差別社会とは男に高い下駄を履かせ、女を黙らせ諦めさせる悪習です。そんなものに飲み込まれ、諦めないためにできることは一つしかありません。自分自身を責めないこと、です。私たちは自由で気高い個です。私の言葉に、私の命に、強い価値があるのです。5フォーラム通信2020夏秋号


<< | < | > | >>