「フォーラム通信」2019年秋号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2019年秋号の特集は、「私、のからだ」「私、の生理ちゃん」。


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地球で生きてる私たち〜WorldWomen'sNOW!〜岩山の斜面のファベーラ第2回ブラジル魅力は「多様性」と「自由で力強い魂」サンパウロの貧困地域で1992年から2年間、ボランティアとして働いて以来ですから、ブラジルとの付き合いはずいぶんと長くなりました。今も通い続けるこの国の「魅力は何?」と問われれば、それは「多様性」と「自由で力強い魂」だと即答したいです。広い国土の多彩で豊かな自然、人種や民族が混じり合い、多様な文化が共存する社会、柔軟で自由闊達でフレンドリーな国民性……。バスでたまたま隣に座った人ともすぐにおしゃべりが始まるし、リオの「黒人女性マーチ」国際会議「黒い7月」老若7000人の女性たちが参加した「黒人女性マーチ」ブラジル連邦共和国首都:ブラジリア主要産業:製造業、鉱業、農牧業(砂糖、オレンジ、コーヒー、大豆他)人口:約2億947万人在日ブラジル人数は約20万人。ブラジル在留日本人数は52,426名(日系人総数推定:約200万人)※外務省HP・法務省HPより。2018年の男女格差指数(GenderGapIndex世界経済フォーラム発表)の順位は95位。*日本は110位/149か国中。横に立つ人の荷物をさっと膝の上に乗せて持ってあげるのも当たり前。日本では「足並み揃えて」が重視され、「ひとさまに迷惑をかけてはなりません」が高じて、他者とかかわることすら避けてしまいがちですが、ブラジルを訪ねるたびに「もっとリラックスしていいんだよ」と教えられる思いがします。しかしブラジルの多様性は、激しい社会格差という負の多様性もまた内包するものです。混血が進んでいるブラジルは「人種差別のない国」とよく評されますが、実際には貧困層の大部分を占めるのは、かつての奴隷にルーツをもつアフリカ系の人たちです。「差別心なく仲良くしている」という個々人の内面や振る舞いと、差別が存在しないことは別。ある特定の社会集団に困難や問題が集中し固定化されているという実態こそが差別であり、差別とは社会の構造の問題です。このような、社会の本質を見つめる目をもつことを教えてくれたのもブラジルでした。私が長年、取材のフィールドにしてきたファベーラ(スラムの意)は、社会の矛盾が凝縮する場所です。たとえばリオデジャネイロには市内に800ヶ所以上のファベーラがひしめき、貧困を起因とする犯罪や暴力が深刻な問題となっています。犯罪組織討伐作戦の名の下に展開される警察の武力の濫用は、小さな子どもを含む住民の間に誤射や流れ弾の犠牲者を出し続けています。社会を変える女性たちの力このような厳しい状況にもかかわらず、それを跳ね返そうとする民衆の抵抗の力はたくましく、そこに私は惹かれてやみません。そしてさまざまな分野の社会運動の中心に女性の存在があります。南米特有のマチズモ文化(権力と肉体的な力を誇示する男性優位主義)の中で、学び、働き、子を産み、育て、そして社会を変革したいと行動する女性たちです。今年7月から8月にかけて訪問したリオでは、そんな彼女たちの活躍に接することができました。ファベーラの若い女性アクティビストや、警察に子どもの命を奪われた母親たちが中心となって開催した国際会議「黒い7月」には、国内5州のほかメキシコやチリの先住民女性も参加して人権侵害の実態を告発しました。また「黒人女性マーチ」では、コパカバーナビーチ沿いの大通りを埋め尽くして女性たちが大行進しました。「私たちは社会に存在している。もっと可視化を」「差別や暴力を許さない」「政治の舞台にもっと女性を」という力強いスピーチが胸にズシンと響きました。彼女たちのたくましい姿に日本の私たちが学べることがたくさんあるはず、と信じてこれからも通い続けます。ShimogoSatomi下郷さとみフリージャーナリスト。農的暮らしを求めて2005年に東京から千葉県鴨川市の山間部に移住。2015年からは、アマゾン先住民族の支援活動を行うNPO法人熱帯森林保護団体の協力スタッフとして、毎年現地訪問の旅も実施。先住民族の持続可能な暮らしに、人と自然が共生する場「里山」との共通点を見出している。著書に『平和を考えよう』(あかね書房)、『抵抗と創造の森アマゾン』(共著/現代企画室)など。月刊誌『Latina』で「ブラジルフィールドワーク」を連載中。9フォーラム通信2019秋号


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