フォーラム通信2017秋号

してくれない、だから短期的な展望しか持てない。今がよければそれでいい、という欲望のあり方がはっきりと表れています。そして『ヘルタースケルター』は、そうした欲望をよりグロテスクに描いています。 欲望に忠実で何が悪いの? 美しくなるために整形して何が悪いの?成功するために人を陥れて何が悪いの? 恋愛のために生きて何が悪いの? いい子にしていたって、あたしたちには何もいいことがないじゃない! と主張したくなるのも、分からなくはないですよね。︱作品は時代に影響されますね。 読者も時代の影響を受けていますよ。私は大学の授業で学生に『ハッピー・マニア』を読ませるのですが、以前は「私はカヨコみたいにはなれないけど、見ていておもしろいし、力をもらえる」という感想が多かったのが、最近は「この人、後先考えないでバカじゃないの」「こんなことしても何も残らないし、独居老人として死んでいくだけですよね」と。カヨコへの風当たりがキツイ!︱けっこう辛辣! 今の子は生まれたときから不景気ですから。時代背景を解説しても「不景気を言い訳にしていいんですか」「先が見えないからこそコツコツやるべきです」と。カヨコ、学生に怒られています(笑)。 結婚願望も変わってきていると感じます。たとえば、早稲田の女子学生というとバリキャリ志向っぽいイメージですが、「学生のあいだに将来有望そうな男の子をつかまえといて、卒業と同時に結婚だよね」とか言いますからね。こういう考え方は、増えてきているように思います。だから恋愛に対するカヨコのふりきれぶりがそもそも感覚として分からないのかもしれないです。好きって気持ちだけで、なんでそんなに突っ走れるの? と。︱みんな慎重なのでしょうか。 失敗したくないんだと思いますよ。カヨコって失敗ばかり繰り返すじゃないですか。『ヘルタースケルター』もそうですが、欲望に忠実で『ヘルタースケルター』(祥伝社)作者:岡崎京子連載開始:1995年全身に美容整形手術を施し、トップスターにのぼりつめたりりこ。しかし手術の副作用と若いライバルの出現により、りりこはしだいに精神を蝕まれてゆく。第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。2012年に沢尻エリカ主演で映画化。『ハッピー・マニア』(祥伝社)全11巻作者:安野モヨコ 連載開始:1995年「とにかく彼氏が欲しい!」と一目惚れと失敗を繰り返す恋の暴走列車・シゲタカヨコ。地味なメガネ男子・タカハシは、そんなカヨコを一途に思い続ける。『FEELYOUNG』2017年8月号では、45歳になったカヨコらの新作エピソードがつづられた。あることは今の時代だとリスキー過ぎるということなのでしょうね。︱今年7月に『ハッピー・マニア』の続編(『後ハッピーマニア』)が始まりましたね。読みましたか? もちろん読みました。カヨコも親友のフクちゃんも、ちゃんと歳を取っていましたね。カヨコの疲れた目元とか、フクちゃんの老け顔もよかったです(笑)。あのカヨコが浮気に走ることなくせず、タカハシとの結婚生活を続けていたのは、ちょっと驚きましたけど。 『ハッピー・マニア』のラストは、ウェディングドレス姿のカヨコが「彼氏ほしい!!」と叫んで、新婦控室のドアを見つめるシーンで終わります。私はよく授業で「このあとカヨコは新たな恋を求めて式場から逃げ出すでしょうか、それともこのままタカハシと結婚するでしょうか」とディス1993(平成5)1994(平成6)1995(平成7)1997(平成9)「パートタイム労働法」公布国連総会で「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」採択総理府に男女共同参画室、男女共同参画審議会を設置「国際人口開発会議」開催(カイロ)阪神・淡路大震災発生地下鉄サリン事件発生「第4回世界女性会議」開催(北京)「男女雇用機会均等法」改正(女子差別禁止、セクハラ防止への配慮義務他)フォーラム通信2017秋号 4