「フォーラム通信」2020年夏秋号

「横浜から男女共同参画社会の実現を考える」。公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が発行する広報誌です。2020年夏秋号の特集は、「私、のなやみ」「自分のためのこころとからだのメンテナンス」。


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私、のなやみ回答者1伊藤比呂美●プロフィールいとうひろみ詩人『良いおっぱい悪いおっぱい』(中公文庫)シリーズで育児エッセイの分野を切り開き、世の母親たちの共感を呼ぶ。以降、遠距離介護、両親や夫の看取り……様々な経験をもとに女の生活に密着した「生きる」「死ぬ」を見つめ続けている。西日本新聞、東京新聞等で20年以上続けている人生相談と各地での「人生相談ライブ」も人気。人生相談本には『女の一生』(岩波新書)、『女の絶望』(光文社)、『比呂美の万事OK―人生相談』(西日本新聞社)等。「婦人公論」での連載のファンも多く、連載をまとめた抱腹絶倒エッセイは『閉経記』、『たそがれてゆく子さん』(共に中央公論新社)等。現在は早稲田大学で教育に携わり、九州と東京の二拠点生活中。ⓒ吉原洋一最新刊は、人生いろいろ、不可解不思議な日常を漂泊しながら書き綴るエッセイ『道行きや』新潮社)。Q140代女性何をするにも「若いうちに結婚しないと売れ残る」「結婚相手は安定した職業の人」「離婚はダメ」「子どもは一人以上産まないと」……みたいな、親や社会の「常識」が重くのしかかり、自分の考えや選択に自信が持てないで生きてきました。結局、結婚も出産もしないまま、40代になってしまった。こんなはずじゃなかったのにという気持ちで自分の人生を受け入れられません。色々なしがらみを軽々と飛び越えてきたように思える伊藤さんに、自分の人生を生きるための思考や、人に惑わされない心持ちを教えてほしいです。A1えー、誤解のないように申し上げますと、わたしは色々なしがらみとくんづほぐれつの格闘しながらずっとひきずっておりまして、いまだに飛び越えていませんよ。何よりも、鈍感になることです。親が何を思おうと、他人が、社会が、常識が、自分のことをどう思おうと、気にしない、気にならない鈍感さ。でも気になってしまう。その理由は、親や他人や社会や常識は、自分のことを「だめだ」と思っている。そしてあなたは自分がだめだと思われることが許せない。自分はだめじゃないと思っているから。そこからなんですよ。「だめな自分」を許しちゃいましょうよ。世間にあてはまらない人間ですよ、常識のない人間ですよ、親の期待なんかぜんぜん添えない人間ですよ、それがなにか?ってところから、少しずつ開き直っていくと、いつか自分を「ああ生きてるなあ」と受け入れられるところにたどり着く。そこまで行ければ、親や他人や社会や常識が気にならない鈍感さが手に入っているはず。3フォーラム通信2020夏秋号Q250代男性新型コロナウイルス感染予防のため、私自身は当面、在宅勤務になったり、子どもたちも学校が休みで家にいます。妻だけ、スーパーでパート勤めなので、出勤しなければいけない状況です。もともと、家事や育児は女の人の仕事と思っているので、パートにでたいと妻が言ってきた時も「家庭に支障のない範囲で」との約束でした。でも、この在宅勤務が始まってから、妻が「せめて昼ご飯は、あなたが作って子どもたちと食べて欲しい。子どもの勉強も少し見てあげてほしい」と言ってきました。在宅とはいえ、自分の仕事もあるのに、子どもの勉強の管理や昼食作りなんて出来るわけないです。けんかになり、困っています。A2いい機会ですから、この際、「家事や育児は女の人の仕事」と思っている気持ちを大きくひっくり返し、「家事や育児は二人の仕事」に変えましょう。自分の意見ってなかなか変わるものじゃないから、こういう機会にめぐりあえて(あなたは)よかったんですよ。「在宅とはいえ、自分の仕事もあるのに、子どもの勉強の管理や昼食作りなんてできるわけない」とあなたは言いますが、そう思いつつ、やってきたのが女の(以前からの)在宅ワーカーでした(たとえば詩人などもその枠に入ります)。あなたは、彼女たちがやってきたことをやるだけです。やり遂げてきたとは言いません。もともとやり遂げることのない、カンペキにやることになんの意味もない、そんな分野だからですよ。すると、いろんなことがわかります。コロナの苦労をなるったけ人生に役立つように持っていく工夫その一といいますか。そしてこれは、あなたがた夫婦が、これから80や90までいっしょに生きていく上で、とても大切な、共感をはぐくむ経験になる。


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